第7章 礼文島上陸



8時間コースにて(写真提供:モリ先生)


礼文島上陸



佐藤商店
 爆睡約2時間。久々に礼文へ帰って来た。天候は薄曇。まずは腹ごしらえだ。

 マシンを走らせ、島の西海岸元地へ出た。途中、歌って踊りまくる有名なYH「桃岩荘」を通過したが、今年は崖崩れの影響で休館している。
 ツーリングマップルに出ていた佐藤商店へ行ってみるつもりだが、元地はなぜかまだ足を運んだことがない。狭い坂道をくだると、ちょっとした土産物屋が立ち並ぶ観光地だった。
 佐藤商店到着。千円のうに丼とトド肉の串焼きをオーダーした。千円のうに丼だけあってうにの量は少ない。でもまあこんなもんだろう。トド肉はレバーのような味がした。

 まあ店員の愛嬌もいいし、話のタネにはいいか。

うに丼とトドの串焼き


久種湖畔キャンプ場



スコトン岬
 せっかく礼文に渡ったなら、最北限スコトン岬は外せないポイントだ。雲が多くなった中、岬に立つも人気なし。ひとりでタイマー撮影したがかなり惨めに感じてしまう。

 久種湖畔キャンプ場へ戻った。

 明日、単独で8時間トレッキングを決行するつもりなので、香深井までのバスの時間をチェックしてテントサイトへ向かうと後ろから・・・
「北野さんですよね」

『そうだが』
「永久ライダーの読者です。永久ライダーのステッカーや風貌をみてわかりました」
 オフで知らない読者に初めて声をかけられた。
「以前、礼文のお祭りの記事を読んで来てみたんですよ」
 なんだか誰が読んでるか判らないし、ヘンなことは書けないと思った。

 俺の旅の感性とは絶対に違う負のオーラあり。

久種湖畔キャンプ場
 俺の無償でやっているサイトをご覧になるのは自由だが、こっちはなんにも知らないし、今、会ったばかりの他人から必要以上に慣れなれしくされるのって微妙だ。というより、この男の人相や不自然な関西弁に非常にいかがわしさを感じる。これは深く関わるべきでないという防衛本能が湧きあがっていた。


永久ライダーオタク



焼き鳥を焼く
 とりあえず、テントを立てたいので適当にあしらい?いや言葉を濁し、野営の準備をする。

 いつの間にか礼文にもできていたセイコマで、酒や焼き鳥を購入して置いた。そしてクッカーでご飯を炊く。流石に缶詰ではなく、今夜は焼き鳥丼にしてみた。

 いやあ、なまらうめえ。
 たまには、さっさと早寝しよう(昨夜もか)・・・と思いシュラフにくるまりながら寝酒を煽っていると・・・

「今晩は。もう晩ご飯は済みましたか?」
 さっきの男だ。信じられない。恐らくあまり旅慣れていないから既にテントの中に入っている人間へまで声をかける非常識を助長させているのだろうか?性格的な問題か?とにかくシツコイのは好きじゃないし、男への第一印象自体も嫌な予感がしていた。

 俺は、もちろん旅での交流は大切だと思っている。しかし、それと同じくらいひとりの時間も大切にしているのだ。

 でもまあいいか。男は「ヤスケ」といい、大阪から来ているそうだ。酒はあんまり飲めないと言いながら、俺の定量の焼酎をガブガブ飲んでるし。なんだかなあ。

「やっぱり旅は交流ですからね。若い連中にもよく言っているんですよ」
『そうでしたか』

 かなり複雑な気分・・・

 そして酔いながら
「去年、北野さんは、ツーレポのあの部分、何度も書き直してますよね、この場面ではこう書いてますよね」
 と、俺が覚えてない内容まで実によく知っている。

 き、キモイ・・・

 いや細かく読んでくださりありがとう。そして初対面の貴殿に非常に馴れなれしくされて本当に気色ワル・・・い、いや、あ、ありがとう。なんだかHPあげてるのが嫌になってきたけど。

 あの、うちのHPをご覧いただくのは勝手(嫌なら見なくてよい)なのだが、どこの誰とかも知らない人間から粘着されるイワレなど、まったくない。俺は八方美人じゃないし、芸人でもない一般の旅人だ。

 遅くにようやくヤスケが帰った。明日は8時間歩くんだったな。早く寝ないと。

 ふう、なにがネットだ。


キャンプ場襲撃!



 やっとシュラフに入って、ウトウトしていると・・・

 ブオ〜ンと寝静まったキャンプ場内にケタタマシイ改造車の爆音。
「こんな離島に来てなにが楽しいんだろう」
「あっ、このバイクなに?だせぇ〜」
 駐輪場付近やサイト内をガシャガシャ歩き回る足音がうるさい。なんだか大変なことになっているみたい。

 愛機が危ない。

 さすがに黙殺しているわけにもいかず、
『静かにしたまえ』
 男は闘わねばいかん時は闘うのだ。

 しかし深夜のキャンプ場を荒らすなど、あり得ない反則行為である。

 一喝して外へ出ると、いかにもという連中がワラワラと現れ、ヤンキー集団に取り囲まれてしまった。

 いくら俺が手練れの酔拳の使い手でも、こんな大人数に一気に集中攻撃されたら、絶対にフクロにされるよ。

 と、言ってもしょうがないので、チビりそうになりながらも
『明日早い人が多いんだ。静かにしろ』
 と言うと存外素直に頷いて、連中は退散していった。

 暫くすると
「大丈夫だったかい?」
 疲れた顔の初老のオヤジが話しかけてきた。

 全部見ていて話がついた後に出てくるのかい?

「あの連中が逆ギレして怪我でもしたら大変だよ、以前はキャンプ場へちょっかいかけることはなかったんだが」
 との一言。

 確かに全国各地の逆ギレ事件は知っているが、なんだかな?どうやら男は補導員のようだ。連中を見張っていたらしい?

 でもなあ、すべてが終わってから現れて大丈夫だったかいか?

 それは順番が逆だろ。一般の旅人にここまでさせる前に体を張るべきじゃないのか?事前に止めるべきだろう?特に補導員なら?

『彼らは素直に帰ったよ。でも大人のあんたの方が根本的に何かが間違ってねえか?』
 おっさんへ不機嫌に話しかけたら
「ワリィなあ」
 と言って連中を追いかけて立ち去って行った。

 その後2泊したが、仕返しされたりとか嫌がらせはなかった。でも考えさせられる事件だったと俺は思っている。

 そして、自分のバイクは心配だが、テントの中で震えていただけのライダー達が、ぞろぞろと駐輪場へ出てきた。
『大丈夫だ、お前らのバイクは全部守ったよ』

 しかし息を殺して皆起きてたの?冷たいじゃん。さらに俺は不機嫌になった。なんだかんだと仕切るヌシみたいのもこのキャンプ場に存在していたが、もう明日から俺の奴隷にでもなり下がりたまえ。

 女の尻ばっかり追っかけて自分の愛機も守れないんだったらヌシの資格もない。

 というかヌシ的要素のある連中は金輪際永久ライダーへ近づかなくなってしまった。

 チッ、奴隷を逃がしちまったか。

 ただ、真面目そうな青年が、ひとりだけ俺のテントの前にやってきて礼をいった。

「ありがとうございました。ぼくも外に出て一緒に連中へ注意したかったのですが、腰が抜けてしまいだめでした。役に立たなくて情けないです。すいませんでした」
『いいんだ。なんも気にすんな。おまえさんは正直者だよ』
「口先だけなら人間はなんとでもいえる。でも、いざというときに実行できる人物は少ないと思います。先輩は、たった一人であんなに大人数の相手に平然と立ち向かっていきましたよね。あなたは、サムライです。現代で本物のサムライの姿を見れて無性に感動しました。最北限のサムライ。そう、あなたは北のサムライです」
 若者は、そう呟きながらテントへ戻った。

 ”北のサムライ”か。かなり照れるが、俺は、この言葉を反芻していた。北の果ての島で見知らぬ若者ライダーから名づけられた異名”北のサムライ”。以後、ありがたく使わせていただこう。本当はただのヨッパライダーなんですけど。

 これを読んだ方には、礼文島へかなりマイナスイメージを持たせてしまったやも知れない。でも飽くまで事実のみを忠実に再現した。どう考えたって、キャンプ場(しかも有料)で、こんなことをさせて置いたらダメだろう。

 あっ、かなり旅の修羅場を経験している俺ですら驚いたけど、でも礼文を決して嫌いになったわけじゃないよ。