北海道ツーリング2005前編




日本最後の秘境”シリエトク”へ







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 シリエトク(知床岬)

 手つかずの自然が残り、日本最後の秘境といわれている。

 さらに知床世界自然遺産の核心地・・・

 テン泊しながら、いくつもの難所を越え、ヒグマの密集地帯を突破しない限り、徒歩では絶対に辿り着けない禁断の岬なのだ。

 これは、道なき道を恐怖と極限に耐えながら歩き抜いた2005年夏の真実の記録である。



「ワシは3年目だが、あんた和琴湖畔キャンプ場は何回めだ?和琴はいいところだろう」
 マシンにパッキングしていると老人から、声をかけられた。

『さあ、何度利用したでしょう。18年前、俺が学生の頃からお世話になっています』
 俺は作業を続けながら答えた。

「なに18年前からだと。あんた若そうに見えるがいったいいくつだ」
 ジイサンは目を丸くしていた。
『もう、それなりの歳です』
 
 俺はさらに入念にネットを張っていると、
「あんた、北海道を今回、どのくらい周るんだ」
 この手の質問に答えるのが非常に面倒だ。真夏の陽射しは強烈に屈斜路湖周辺へ照りつけており、北限のミンミンゼミの声もジワジワと蒸し暑さを助長させていた。

『ざっと3週間です』
 老人はさらに驚愕し
「な、なんで、そんなに休みが取れるんだ。近頃、大企業では2週間ぐらい夏休みを取れるという話を訊いたことはあるが、3週間じゃと」
 怒ったような口振りだ。日頃の休日返上の振替で、比較的閑な8月に代休を集中させただけなのだが、そこまで答える義理も義務もない。

『旅人にそれを聞くのは不粋ってもんでしょう』
 俺は適当な返答でごまかしながらパッキングの手を動かした。

「あんたらライダーはバイクで簡単に移動できるからいいが、ワシは歩きだから苦労している。砂湯から和琴まで歩いて4時間もかかった。暑いから大変だったぞ。たまには歩いてみろよ」

 なんとか俺をやり込めようとしているか?自分をそんなに誇示したいのか?

『俺は先日、相泊から知床岬まで歩きました。羆の恐怖、念仏岩の垂直降下、兜岩の百メートル降下など悪戦苦闘でしたよ』

 最後に登山用のメインザックを荷物の一番上にくくりつけた。

「なんじゃとー、何時間ぐらいかかった」
 老人の自慢というか、自負心が音を立てて崩れているようだ。
『何時間というより2泊3日かかりました』
「な、な、なんでそこまでする」

「それにバイクに貼っているこの永久ライダーのステッカーはなんだ」
 ほとんど喚き散らしていた。

『永久ライダーだからこそ体を張ってシリエトクを目指したのです』
 俺は煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。正直、煩い。

 俺の目には、ジイサンの姿など最初から視界には入っていない。所詮、道なき道、ヒグマだらけの知床岬縦走の苦しさは死線を彷徨った人間にしか分からない想像を絶する未知の領域なのだ。

 とは思ったが・・・

『お聞かせしますか。永久ライダーの知床岬踏破の軌跡を』
 ふと人跡未踏の道なきルートが湖畔に次々とオーバーラップしてくる。

 どこまでも続くゴロタの光景、果てしないシリエトクへの道のりが・・・

「あんた、和琴キャンプ場は何回めだ?」

 しかし、ジイサンは既に隣のテントの奥さんに絡んでいた。

 利用回数が多いから偉くなるという稚拙な考えなんざヌシの理論だ。

 何回だって、何万回利用したって他人の旅の自由じゃねえか。

 俺は思わず噴きだしながら、荷物満載のゼファーへ跨り、静かにスロットルをあげる。

 そして、記憶の中の俺がシリエトクへ向け、再び相泊からのゴロタを歩きだした。

 最終地は大地の突端だ。


※シリエトクとはアイヌ語で大地の突端(行き詰まり)という意味があり知床の語源となった。つまり知床岬を意味する。



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