北海道ツーリング2006








和琴レストハウスにて



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 和琴での2日間は、ただただ酒を飲み、温泉三昧にふけっていた。前項で描いたようにあまり詳しくは描くつもりはない。

 しかし、トマコマが負けてしまい、かなりガッカリしてしまう。

 まあ、充分な休息ができたからいいか。3日目の朝にはパッキングをきっちりと済ませ、木漏れ日の売店へ挨拶に向かう。
「この夏は暑かったね。普通はお盆を過ぎると涼しくなるのに今朝も朝から暑いわ」 
 おばさんが、呟いていた。
『ええ、本当に参りました。なんだか体調がヘンです』
「何年か前の夏みたいに体調を壊さないといいね」
『ありがとうございます。また来年』
「気をつけて帰るんだよ」
 おばさんが、手を振ってくれた。俺は一礼し、スロットルをあげたが強烈な日差しがいきなり目に入り、とても眩しかった。 
 しかし、腹が減った。以前と違い、和琴レストハウスではファーストフードを取り扱ってはいない。

 駐車場脇に立ち並ぶ売店を見ると「いもだんご」の看板があるので、ひとつ購入。ついでに牛乳も頼んだ。

 美味い・・・

 いもだんごは、まさに北海道の味だった。牛乳も搾りたてだし。
「今日はどこに向かうんだい」
 おじさんが話しかけてきた。
『そろそろ旅も終盤なんで、苫小牧方面へ向かうつもりです』
 俺が応えると、
「十勝はかなり暑いよ。かと言って海岸線は霧が酷いみたいだね。判断に迷うルートかな?」
 おじさんは笑っていた。
『ご馳走様でした』
 ご主人に軽くお辞儀を済ませ、ふたたびスロットルをあげた。

 弟子屈、摩周の市街地を走り抜け、標茶付近を走行していると道路脇の牧草地帯に鶴だ。雛連れのツガイの3羽の鶴だ。凄い。久々に真近な鶴を拝んだ。

 マシンを停め静かに画像に収める。
 空はどんよりと曇っていたが、シラルトロ湖が見える頃になると薄日が差してきた。そして、塘路湖の美しい蒼の湖面が揺れている。

 道は空いている。相変わらず蒸し暑いが、実に心地よい気分で達古武沼を通過した。

 そして釧路の街へ突入。

 釧路といえばやはり・・・
 和商市場だな。

 ゼファーを市場横に停め、内部に突入。相変わらず凄い熱気だ。ひとしきり巡回し、ご飯の中サイズを購入。そして適当に店を決めて、イクラ、クルマエビ、鯛、イカ、サバなどの刺身、珍しいクジラも乗せてもらった。

 やはり和商市場の勝手丼、美味しいし、いつ来ても楽しいと思った。
 海岸線のR38をひたすら南下。ラジオの天気予報の通り、海岸線は凄い霧だ。お蔭で暑さが幾分緩和されているので、そういう意味ではかなり助かった。

 白糠あたりまで来ると渋滞もなくなった。

 直別から内陸部へ入る。閉鎖された巨大なドライブインとか廃屋のような建物が目立ち、哀しい空気を嗅いだ。そんな雰囲気とは裏腹に御日様がジリジリと照り出し、気温はどんどん上昇してきた。

 またかよ。このやってられなくなる暑さ・・・

 もういい加減にしてもらいたいもんだ。ただでさえ消耗し尽している体力がまた奪われていく。
 あまりの暑さで道路がカゲロウのように揺れていた。眠気もピークに達してきたので、セイコマへ立ち寄る。

 ここはパワーの源、北海道限定のソフトカツゲン。これを飲んで体力回復を図るしかないな。

 まあ、飲むヨーグルトとカルピスをたして割ったような味なのだが、不思議と元気が出てきた。

 ナンカ元気が出てきたというワケで、さらにナンカ(南下)しよう(^^; 
 標識を見ると「更別村」とある。更別?果て?なんだか記憶があるぞ。

 旅コミ誌「北海道のハマり方Ver.2」の校正を担当した時、某有名店より美味いという噂の豚丼の記事を見たっけ?

 え〜と店の名は・・・

 そう、「わがや」だ。思い出したぞ。確か役場の近くだったな。

 しかし、十勝平野に入るとますます気温が上昇し、尋常な暑さではなくなっていた。もう気力のみが頼りだ。

 豊頃からR38を外れ、道道210をひたすら走る。民家などない。延々と十勝の牧草地帯のみが広がっている。すれ違うクルマさえ、ほとんどない。この道で大丈夫なんだろうかという焦燥にかられながら突っ走る。

 もうずいぶん走った。どうやら更別村には入ったようだ。

 道道716へ右折すると今度は広大な畑作地帯だ。とにかくカンプラのハッパばかりが、どこまでも風景を埋め尽くしていた。

 ようやく見つけた農作業帰りのおじさんに
『役場は、どの辺でしょうか』
 と訊くと、
「役場って、更別のかい?それならこの道を真っ直ぐだ。交差点もあるが真っ直ぐ突っ切るとすぐに分かるよ」
 親切に教えてくれた。

 そして、ようやく更別村中心部へ到着!

 食堂「わがや」もすぐに発見。

「いらっしゃいませ」

 中に入るとオーナーらしいおばさんと、数人の女性スタッフ?からいっせいに挨拶された。

 きちんとした店だ。こういう店にハズレは絶対にないと直感的に思った。

 もちろん俺は噂の豚丼をオーダーした。
 やがて運ばれてきた豚丼に俺は驚愕した。
『す、凄え!』
 店員の感じのよいおねえさんが、
「うちの豚丼は本当に美味しいですよ』
 実に素敵でいい笑顔だった。自信があるから、こういう表情ができるのだろう。

 一口頬張ると自家製なんだろうなあ。甘辛い、絶妙のタレ。お肉も厚くてコリコリしていた。

 本当に美味しい。
 ボリュームも申し分ない。

 いや、今の俺には苦しくなるような分量。個人的には帯広あたりの豚丼の某有名店を凌駕していると思った。

 本当に暑い中、はるばるとここまで来た甲斐があったというもんだ。

 思わず俺はおねえさんに、
『あの俺は、ホームページを持っているのですが豚丼の画像を公開させてもらっていいですか?』
 と掲載依頼までしてしまった。

 おねえさんが、オーナーのおばさんへその旨告げると、
「よろしくお願いします」
 と逆にこっちが恐縮してしまうほど丁寧に挨拶されてしまう。

 いや〜ホントに腹一杯!

 満足して会計を済ませにいくと、
「あの、お客さんのホームページの名前を教えてください」
 とおねえさんから言われた。

 メモ紙にうちのサイト名を書くと
「楽しみです。今夜にでも拝見しますわ」
 ドキリとするような例の素敵な笑顔を見せた。

 興味のある方は、こちらを是非ご覧ください。

 食堂わがや

『ご馳走様でした』
 たっぷたっぷの腹で店を出て、マシンへ跨る。日差しはやはり容赦なくバディへ照りつけていたが、満足顔の俺は、広尾国道(R236)をゆったりと南下し始めた。

 豊似で、えりも岬方面を避け天馬街道に右折。山間のルートだが、襟裳経由より30分以上短縮できる。ただし、62キロ以上ガソスタがないので峠に入る前に給油は済ませておいた。
 気持ちのいいワイディングをクリアしながら快走する。

 やがて道内最長トンネル「野塚トンネル」を抜け、翠明橋公園Pにて小休止。久々に湧水も堪能した。陽は既に傾き始めている。そろそろ今夜のネグラを決めないと。

 なんて考えながら出発。
 浦河町の情報ステーションあたりから霧が出始める。それでもひるまず峠を延々とくだった。

 ようやく海岸部「日高幌別」へ突入。

 道路脇のセイコマで、今夜の食材やアルコールを調達し、煙草に火をつけた。煙を吹き出しながらふと空を見上げると曇天だ。やっぱり気が滅入るが、めげずにセルをまわした。

 三石で温泉に入ろうと思っていたのだが、施設は閉鎖されていた。しかし、TMは役に立つけど誤植も実に多い。

 三石海浜公園キャンプ場に目をつけ、ここで幕営をなどと考えていたのだが、ここもフリーサイトは閉鎖だ。やっているのは、高額のオートキャンプ場とキャビンのみ。かなりヘコむ。

 もう、あたりは薄暗くなってきた。

 俺は、どこでテントを広げればいいのだ?

 やむを得ず、さらに南下を繰り返す。

 静内、ここには温泉もあるし、無料のキャンプ場もある。以前に幕営したこともあるが、ヌシ問題で非常に評判が悪い。無用のトラブルも避けたいので、またまた南下。

 ここは新冠の判官館森林公園にするか。以前に宿泊した経験もあるし、当サイトでは読み物等で縁も深い。

 あたりが真っ暗になった頃、ようやく判官館キャンプ場到着。しかし、管理棟の灯りは消えていた。

 どうしよう。

 すると・・・
「キャンプしたいのかい?」
 おじさんが話しかけてきた。
『ええ、できれば』
 と俺は訝しげに応えた。

「実はここのキャンプ場の管理人なんだが、たまたま忘れ物があって戻ってきたんだ。ここは18時には受付が終了してしまうんだよ」

 そういえば、おじさんの顔に見覚えがあった。

 でもまあ、とっくに終了している管理棟に電気を灯し、わざわざ受付してくれてすいませんねえ。用紙へ必要事項を明記し、いつものサイトの裏側に急いでテントを張った。

 テントは俺のほかにツーリングライダーのモノが3張り程度だ。もう休んだのかとても静かなムードだった。

 俺はガスバーナーを外に出し、塩ホルモンを炙った。酒はグランブルー、チビリチビリと飲み、やがてテントの中へ引っこんだ。

 直後に豪雨に見舞われる。

 まさに危機一髪・・・

 テントには、延々と銀の雨音のシラベが響き渡っていた。今夜から道内はずっと悪天候が続くとラジオから流れている。

 ずっと悪天候っていつまでなのだろうか?

 そんなことを考えているうちに泥のように眠ってしまった。

 和琴から更別経由で新冠。ちょっと走り過ぎか。

 俺はなにを焦っているのだろうか。

 まるで、見えないなにかに追われているような気がしてならない。

 とにかく暑さと長時間走行のダブルパンチは、キタノオヤジの身に相当堪えている。

「キタノさん、オロロン鳥のキーホルダー、お土産に買ってきてね」
 この言葉が脳裏をよぎる。

『ああ、そのぐらいなら、お安い御用だ』

 ところが・・・

 実に陰謀めいた不本意ながらの転勤で、多くの若い後進へ不義理をしてしまう。

 俺は、去年から約束をしていた。

 以前の職場の若者から夢の中でそれを催促されてしまう。これは大切な約束だったんだな。

『ごめんなあ、先日、羽幌に向かったのは、オロロン鳥のキーホルダーを手に入れるためだけだったんだけど、あと一歩で悪天候に阻まれて断念してしまった。でも代わりにキタキツネのでもいいかい?』

 ふと夜中に目を覚ますと雨は止んでいた。

 そして俺の瞼はなぜか濡れていた。



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