北海道ツーリング2007








積丹ブルー(神威岬にて)



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 蒸し暑いが、降ったり止んだりのあいにくの天気だった。モンベルのゴアのカッパを羽織って、とにかく札幌に向かいひた走る。

 とりあえず札幌に入ったが、これからどうしよう?洗濯物が溜まっているし、そろそろ旅の終盤だ。疲れも相当蓄積されていた。今夜は無理せずホテル泊にするか。

 携帯から、札幌のホテルへ予約を入れた。ビジホ?いや、かなり格上のシティホテルなんだがインターネット予約をすると、それなりの割引をしてくれるのが嬉しい。俺は何気にホテルの気ままなシングル泊も好きだったりする。すぐに街の酒場へ飲みに出れるのがよい。←オヤジ化がかなり進行している?

 フロントでチェックインを済ませ、9階の個室に荷物を運びこんだ。いやあ、クーラーが実に心地よい。じっくりと熱いシャワーも浴び久々に文明社会へ帰った気分になった。なにせ山賊のような生活が連続していたので別天地のような快適さである。

 このまま安らかに眠ってしまいそうになるが、せっかくだからススキノへ繰り出すか。ただし、俺は間違えても風俗方面などは無縁の男だ。

 ホテルから徒歩でススキノへ向かう。そして、餃子の専門店で北海道餃子なるもの(饅頭のような型をしていた)を肴に酒をがぶがぶ飲んだ。締めにラーメンもすすったが、店名は忘れた。

 なんだか中島公園の方角が怪しくなるぐらい酩酊したが、野生の勘というやつでホテルの部屋に辿り着くと、久々のベッドの感触が至福過ぎて、もう溶ろけるように爆睡してしまう。

 本当に心地よく、くつろげた。

 翌朝は実に爽やかに目覚める。天気も回復して窓辺に日差しが照りつけていた。やっぱり今日も暑そう。朝食バイキングをガツガツと食べチェックアウトを済ました。
 その足で、まっすぐコインランドリーで洗濯をしまくった。なんだか怪しい感じのランドリーだが、常駐のおじいちゃんが丁寧に洗濯機や乾燥機の操作方法を教えてくれた。

 さて、洗濯も済んだし、どこへ行こうか。

 マップを見ていると、久しぶりに積丹ブルーを拝みたくなってきた。よし、行こう。
 というわけで、一路積丹半島へ・・・

 ところが、小樽方面へ向う途中で、やっぱり雨が降ってくるスィ・・・

 カッパを着込んで渋滞気味の小樽をスルーし、余市へ入る。ここまできたらカキザキ商店の2階、つまり海鮮工房で昼食だろうと思ったんだが行列だった。家族(子づれ)づれの大騒ぎがかなりかしましい。子供嫌いじゃない(むしろ好き)のだが、しっかり親が注意すべきだろう。

 暫し待ち、ホッケ定食428円を賞味した。以前よりはやや値上がりしたようだが、この価格でよくやってられるなあと感心する。本当に美味しいし。

 ホッケ定食を堪能し、さあ行くかあ・・・

 どうにか雨は収まってきた。

 海岸線の道路を延々と走る。途中、セイコマで酒・食料などを調達。やがて、積丹町へ入り、以前、訪れたことのある積丹岬はスルー。山間部の道を縫うように走る。このあたりで、またガスが濃くなってきた。山の中で、熊出没注意の看板が何箇所にも立てられている。凄く寂しいエリアだと思った。

 ようやく海岸線に到達。砂浜の無料のサイト、”道営野塚野営場”前に愛機を停めた。今夜の幕営予定地だ。

 ところが、夏休み最後の週末ということで、ファミキャンでごったがえしており、とてもテントを立てる気にはなれなかった。

 俺の拙い記憶を辿ると確か積丹岬手前に”積丹岬キャンプ場”があったはずだ。そっちへ行ってみるか。せっかくショートカットしたのに積丹岬へ逆戻りだ。やれやれ。

 この頃になると陽が西へ大きく傾き、ギンギンギラギラな日差しに直撃される。本当に暑い。日焼けし尽した赤銅色の両腕がヒリヒリと痛む。

 左手の海岸線に浮かぶ夫婦岩など楽しみながら、夕刻の積丹を走る。キャンプ場じゃない海岸でゲリラキャンプをしている人たちも多数目撃した。流石に今の俺には、そこまでする勇気はない。とにかく積丹岬へ行こう。

 そして、積丹岬手前に辿り着く。確かに人気のないキャンプ場は存在した。

 がっ・・・

 管理棟へいくと閉鎖されているじゃないか!

 ガ〜ン・・・

 残念無念なり。

 もう、本当にがっくりだ。墓場のようなキャンプ場を横目に岬のパーキングへマシンを停めた。

 せっかくだか積丹岬だけでも8年ぶりに拝んで行こう。
 洞門をテクテクとくぐり、積丹岬からの海岸線を久しぶりに眺めた。

 おお、これは見事だ。でも翌日に拝んだ神威岬の積丹ブルーのあまりの鮮やかさへは、まったく及ばないことなど、この時は知るよしもない。

 しかし、今宵の幕営は如何したらよいものか。混んでたり、閉鎖されていたりで頭が痛い。 
 とりあえず、妻に携帯から連絡してみた。

『俺だが、変わりはないか?』
「ええ、相変わらず暑いけどね。今、どこ?」
『ああ、積丹岬だよ。1999年の人類が滅亡する予定の時代以来だな。でもね、景色は、やっぱり素晴らしいよ』
「今夜はどこへ泊まるの?」
『それがな、泊まる予定のキャンプ場が閉鎖されて参った。これから必死で探すわ』
「へんなところじゃなく、きちんとキャンプ場にしなさいよ」
『了解!』
 まあ、ざっとこんな感じの夫婦の会話がなされた積丹岬での夕刻のヒトコマだった。

 とにかく海岸沿いのキャンプ場は激混みのため避けよう。マップを見ていると”古平家族旅行村”というやや内陸にあるキャンプ場を発見した。豊浜トンネル近くなんだが、またずいぶんと逆戻りだな。でもしょうがないだろう。陽も落ちかけているし。

 道道913から雷電国道へ入り、左手に日本海へゆっくりと沈んでいく夕陽を拝みながら、ひたすら漁村の光景を南下した。そして崩落事故の遭った豊浜トンネル手前で右折し、山間部に入る。

 ワイディングをいくつかクリアすると広大なサイトが見えてきた。どうやら冬はスキー場になるようだ。しかし、利用者のほとんどが、団体さんだ。つまりファミキャンご用達のサイトで、俺のようなさすらいの旅系ライダーはお呼びじゃないみたい。

 管理棟で受付をするとワンサイト貸切で1500円也。う〜ん、もったいないというかなんというか複雑な心境だが、背に腹は代えられん。渋々利用料を支払った。 
 道路に面した撤収し易いサイトへテントを設営した。そして、塩ホルモンを炒め、ビールを煽りながら一息つく。

 なんとか落ち着いたが、いつまでも子供たちのかしましい喧騒は絶えることはない。さらにキャンプ場全体で、ファミキャンや職場の団体の男女が酔って絶叫しまくっていた。深夜未明に及ぶまで。

 流石の俺もこれでは、いくらなんでも眠れない。 
 真夜中にカラオケまで投入する乱痴騒ぎとなった。どうやら札幌方面から大挙してやってきた集団の大宴会キャンプみたい。俺は、ほとんど朝まで寝れずに充血した目でテントから這い出した。ダメだこりゃ。

 撤収・・・

 払暁、俺は、テントをたたみパッキングを済ませる。そして、煙草を1本吸いながらチェーンオイルを丹念に塗り、マシンを始動させた。いつもと変わらぬ朝の行程を終わらせただけなのだが、眠い。くそっ、なんつう連中だ。あまりにもダメージが大き過ぎるぜ。もう、ふらふら。

 早朝の凛とした空気を浴びながら、神威岬を目指した。今日も天気がよくなりそうだ。強烈な磯の香が鼻をつくが、決して嫌いな匂いじゃない。

 なんて思っているうちに神威岬入口付近へ到着する。時刻は午前7時だ。ところが、入口は鎖で閉鎖されていた。8時にならないと開かないという旨の貼り紙発見。なんだか、世の中、上手くいかないことばかりだ。ツーリングマップルには7時〜と記されているのに、またもや無念なり。

 やむなく神威岬から少し先の西の河原パーキングで小休止。

 ここの駐車場はとても広いし、よく整備されていた。 
 Pキャンをしていたらしいご老体の皆さんも実に快適に過ごしたようだ。

 トイレも清潔だし申し分がない。俺もあのようなキャンプ場で不眠症になるより、多少反則気味だが、ここで幕営した方が百倍ましだったと痛切に感じた。

 ということで、じっくりと洗顔し、歯磨きも済ませる。
 そろそろ8時近くなった。またも神威岬へ引き返す。しかし、この旅は行ったり来たりの多いことよ。迷走ばっかりである。

 ゲートを突破し、パーキングへ愛機を停めた。早朝にも関わらず、ずいぶん人が入っているようだ。

 既に1キロ先の岬に向けて歩いている人の姿がかなりあった。
 神威岬まで随分遠いなあ。まあ、好天だからいいんだけど、そうじゃなければ歩く気になれない。

 気温もジリジリと上昇してきて、またも灼熱の暑さだ。もう本当に暑いのだけは勘弁してくれ。大汗をかきながら、アップダウンの多い岬への道のりを歩いた。

 初夏の頃なら、エゾカンゾウが見頃になるそうだが、この酷暑であまり花は咲いてない。
 歩きながら何気に右手の海を覗くと、

 うっ・・・

 なに?この絶妙な海の色の美しさ。いや、そんな次元じゃない。秀麗過ぎる蒼い海だ。思わず、うっとりと見とれてしまった。

 これが、本物の積丹ブルーというやつか。ウニ漁をしている漁師のおじさんの姿も雅やかに映える。
 やがて、岬の先端部分の神威岬灯台へ到達。しかし、積丹ブルーのあまりにも幻想的な美しさに俺は呆然としてしまった。

 恐らく、この旅で一番感動した光景かも知れない。

 海の色が青く絶妙に澄みきっていた。なんだか、自分の日常の悩みや苦労などが本当にちっぽけに思えてくる。
 浮き世場離れした、こんなに美しい風景を拝んでいると、頑張れ、日常に負けるなって激励され続けているような不思議なオーラを感じてしまう。

 灯台の先、つまり本当の先端に移動した。暑いので、岩陰に腰を下ろし、呆然と佇んでいた。

 これじゃあ、人生観が変わってしまう。海を睨めながら、何時間でも飽きもせずにこの場にいれるだろう。
 ただの観光地かと思ってしまいがちだが、決してそんなことはない。北海道屈指の絶景ポイントであることは間違いない。

 なんだか泣けてくる光景だ。俺はすっかり魅了されていた。まさか神威岬から望む積丹ブルーが、これほど素晴らしい眺望だったとは思いもしなかった。

 なんて自分の世界にすっかりひたりきっていると・・・

「キタノさん?」
 横から突然声をかけられた。

『あ〜、そういうあなたは?』

 いくらなんでもサスペンスドラマのようで、あまりにも奇遇過ぎるぞ! 



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