北海道ツーリングストーリー



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 おっ、おい。いくらなんでも飛ばし過ぎだぞ。

 旅の始めの頃は、弱い動物のようにずっと俺の影に隠れるような印象のヨッシーだった。しかし、旅が長くなるにつれ、前を走らせると豹のような鋭い走りを見せるようになってきた。

 それはいいんだが、農家から突然出てきた軽トラと側面衝突しそうになったり、赤信号を見落としてトラックに突っ込みそうになったりと後ろから見ていて危険極まりない。とにかく帰ったら葬儀委員長なんてまっぴらご免だぜ。

 夕張から日高へ向かう峠道「石勝樹海ロード」でもヨッシーが忽然と俺の視界から消えた。どこ行っちまったんだ?まさか崖の下に転落したんじゃねえだろな。俺はマシンを停め、とりあえず煙草に火をつけた。やがて煙草を吸い終える頃、ようやくヨッシーが現れた。

 どうやら給油していたらしい。
「スタンドの脇のラーメン屋、凄く美味しいらしいですよ。行きますか」
 スタンドのオヤジに勧められたようだ。
『ダメだ。先に進むぞ』
 なぜなら俺は、今、腹がへっていない。ヨッシーは毎度のごとく非常にがっかりしていた。ちなみに店の名前は「樹海苑」、俺は2年後にひとりで食べた。確かに美味い。さすがにこのことがあったので子供を騙したようでバツが悪かった。

 日勝峠に入った。交通の要衝でもあり難所でもある。やはり霧が出てきてあたりが少し暗くなる。頂上付近で俺のマシンのネットからスリッパが落ちたらしい。ヨッシーから合図があり、Uターンした。やはり俺のパッキングはまだ甘いか。検討の余地が大いにありだな。

 下りの大きなワイディングをクリヤーしているとなにかいるぞ。よく見るとキタキツネだった。そういえばこの旅では初めての登場だな。暫し観察。カワイイが触るのは厳禁だ。

 やがて牧草地帯の十勝平野が眼下に広がってくる。思えば初めて北海道ツーリングを決行したとき、上陸初日にこの風景へ出くわした。そして痛く感激したことが、まるできのうのことのように彷彿としてくる。

 陽射しがまた強く照りだしてきた。そして牧草地帯の単調な風景も相まって、頭がボーっとしてくる。眠いぜ。我慢しながらスロットルを握り続けると大きな街へと入っていた。帯広だ。

 駅前でマシンを停めた。12年の時空を超えて帯広を訪れた理由はただひとつ。十勝名物「豚丼」を食べること。店はもう決めていた。元祖の店「ぱんちょう」だ。

 近年(これを描いている2004年現在)は、BSE問題で吉野屋でも豚丼を正式メニューへ採用しているからメジャーだろう。でも当時はまだ内地でほとんど無名だった。

 豚丼・・・

 昔は豚丼といえば帯広近辺だけの特製品だったのだ。十勝は豆の名産地である。つまり豚を飼育するにも餌の心配がない。そして、いつの頃からか十勝の豚は身が締まって美味いという評判が立ち始める。

 昭和10年、当時の定食「ぱんちょう」のご主人がこの十勝豚へ目をつけ、苦心の末、あみ出したのが豚丼というわけだ。

 しかし、なかなか「ぱんちょう」が見つからねえな。通行人へ聞き込みをしまくりながらやっと行列のできている「ぱんちょう」を発見した。凄い人気の店のようだ。暫し待って、ようやく席に着いた。

 梅・竹・松。ランクは逆だ。なんでもここのばあさんの名が「梅子」だから梅が高級品になったらしい。肉の量でランクの差別化を図っている。まあ、話のタネに梅にしよう。

 やがて醤油ベースの独特な甘いタレをつけ炭火で焼いた肉厚の豚丼が眼の前に登場する。脂身が適当にあるお肉がぎっちり乗っている。一口頬張ると実に美味い。夢中で箸を動かし、あっという間に完食した。これは絶対にお薦めの味と断言する。

 さて今夜の幕営地はどこにしようか。帯広市内に適当なキャンプ場がTMで確認する範囲では見あたらない。お隣の池田町になら「牧場の家キャンプ場」と記載されている。

 そこにしよう。有名な池田町のワイン城へも立ち寄るが、時間が遅いため既に閉館していた。まあ、いつの日にか来てみよう。

 牧場の家キャンプ場へ到着。受付を済ませ、さっそくテントを設営した。そして風呂だな。ここのキャンプ場は「五右衛門風呂」で有名だ。しかし故障で利用できず。

 がっかりしていると、キャンプ場から「清見温泉」という日帰り温泉施設へ無料で送迎バスが出ているという貼り紙を発見する。こいつは有難い。さっそくバスへ乗り込み清見温泉へと向かう。バスは俺とヨッシーの貸切状態だった。

 清見温泉、素晴らしい。

 なかは広い。もちろん本物の温泉だ。サウナ、休憩室、売店、軽食コーナーなど設備も充実している。利用料も安い。なんと3百円也。

 じっくりと温泉で汗を流し、風呂上りのビールを流し込んだ。最高だぜ。立て続けにビールをお代わりするとふらふらに酔ってきた。ヨッシーはサウナでゆっくりし最終便のバスで帰るそうだ。

 俺は一足先にキャンプ場に戻り、とろけるように眠りについた。




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