箕輪山2007







野地温泉〜鬼面山〜箕輪山(ピストン)



2007.7.7



 箕輪山山頂にて(ちなみに一番手前のオジサンは筆者ではございません)

 このところ、毎週のように休日出勤が続き、日常のフラストレーションがかなり溜まっていた。ということでガス抜きのため、野地温泉登山口から安達太良山頂を目指すことにした。

 今回、野地温泉から安達太良を目指したのは、奥岳登山口、塩沢登山口と順番的にそうなっただけだ。実は以前も同じコースから安達太良山頂を目指したのだが、時間不足のため箕輪山でピストンした経緯がある。

 しかし、野地温泉から安達太良山頂を目指すルートは通常、縦走のコースで、ピストンなどという行為はとらない。でも筆者は普通じゃないので、やって見ることにした。

 7月7日早朝、自宅付近は晴れだ。ためらいなく野地温泉へ向かった。途中、道の駅「安達」で立ち食い蕎麦をすすり、昼食用のおにぎりとペットボトル3本を購入する。

 岳温泉を通過し、野地温泉へ到着。秘湯ブームのせいか旅館自体は大盛況らしい。駐車場が結構他県ナンバーの車で埋まっていた。このあたりは幕川温泉、鷲倉温泉、赤湯、微温泉(ぬるゆ)など、無数の名湯秘湯の一軒宿が点在する温泉好きなら垂涎のエリアである。

 福島市街は晴れているのに山中はガスが出ていた。まあ、雨になることはあるまい。登山靴に履き替え、ブナの林の中を歩いた。しかし、天気が悪いせいか人気がないなあ。山奥を孤独にひとりで歩くのってかなり寂寥感があふれてくる。

 もし、道に迷ったらどうしようなどと考えながら、鬼面山山頂へ向かうガレ場を黙々と登る。霧で本当に見通しが悪いし。
   鬼面山山頂に到達。岩場には先着の年輩のご夫婦が腰かけていたので軽く挨拶を交わした。

「雨にはならないと思うけど箕輪山もガスで眺望はゼロだろうね」
 ひとりで登ってきたおじさんが、ご夫婦に話しかけていた。
 眺望ゼロか。果たして俺は安達太良まで辿り着けるのだろうか? おじさんは休まず箕輪山方面へ向け歩いて行った。

「わたしたちは、ここで引き返すわね」
 眺望を期待できないと思った奥さんの方が俺に声をかけて鬼面山を降りていく。
『お疲れ様でした』
 筆者は、どちらかというと眺望よりも踏破した実績を重視するタイプなので、箕輪山に向けゆっくりと歩き出した。

 鬼面山からの降りは、ガレ場ばかりだ。歩きづらいし、見通しもないが岩についたマークだけを頼りに移動していく。鬼面山を降りると比較的傾斜が平坦になってきて、余裕を持ちながら歩くことができた。しかし、暫くすると深い森の中を彷徨うようになり、また孤独感にさいなまれた。
 やがて、もう少し早い時期なら巨大雪渓となる地点へ到達。雪渓はかなり小さく融けている。

 ここで小休止。岩場に腰を下ろし、煙草を吹かしていると、ご年輩のおじいさんが雪渓を登っていく。
 
 実は登山道は雪渓を迂回していくようになっているのだが?でも雪渓を登るルートもあるのかもしれない。おじいさんは、かなり熟練っぽいし、素人同然の俺が声をかけるべきじゃないと思い、敢えて黙った。

 俺は冒険をするつもりはないので、正規のルートをよじ登る。地面がぬかるんでいて、少し歩きづらいが、せっせと歩く。すると右の方から藪を漕いでいる気配がする。やはり、おじいさんが登っている地点にルートなど存在しなかったようだ。全然、見当違いの藪の中から、おじいさんが、ひょっこりと登山道に出てきた。そして休むことなくかなりの勢いで歩き始めているし。凄い体力だと俺は内心舌を巻いてしまった。

 登山道はガス、そして、まったく人の気配が消えた。また、寂しさと不安で一杯になる。俺は、なんでこんなことをたったひとりで繰り返しているんだろう。理由は分からないし、矛盾しているかも知れないが、非日常を求めてしまう。一歩間違えば大変なことになるところへ身を置いていたい。

「生きて還ってきてね」
 今朝、まだ布団の中の妻が俺に呟いた。
『大袈裟な。あたりまえじゃないか』
 俺は笑いながら答えた。

 いつの間にか、薄暗い森を抜け、やや広い空間に出る。もう少しで、箕輪山の山頂に到達する頃だ。頂上付近から人の声も聴こえた。なんて思っているうちに岩場の箕輪山山頂へゴール。

 歩いているときは、汗びっしょりだったが、箕輪山(1728M)の頂上は肌寒いし、眺望はゼロだ。晴れていれば、安達太良山が凄い迫力で眼前(あと4キロ先)にそびえ立っているのだが、周囲はガスで白一色である。さらに最悪なことに霧雨まで降ってくるし。

 頂上では、箕輪スキー場から登ってきたという団体さんなどで賑わっていた。なんでもスキー関係のご年輩のクラブ仲間ということらしい。箕輪ホテルに宿泊しながら山行をされたそうだ。

 その方々以外にも俺のように単独行を楽しんでいるという登山者数名が昼食をとっていた。

 俺もおにぎりを3つほど頬張り、ペットボトルのお茶をがぶがぶと飲む。前述の通り、かつてここまでやって来たことはあった。安達太良は、もう、目の前だ。しかし、このガスと霧雨である。今回も野地温泉ルートからの安達太良山頂ピストン踏破は残念ながら断念するしかなさそうだ。

 また時間的にも難しそうだし。本当に後ろ髪を引かれる思いで、箕輪山の山頂から引き返すことにする。

 復路は意識してピッチをあげると、あっという間に鬼面山に到達する。以前、箕輪山方面からの鬼面山への登りのガレ場のキツさに、ちょっとバテた記憶がある。でも今回は、ヒョイヒョイとあっけなく登り切ってしまった。

「こんにちは」
 鬼面山山頂で休憩をとっていると、単独山行のオバサンが現れ挨拶された。なんでも旦那さんもいらっしゃるそうだが、ひとりで山歩きをするのが趣味とのことで、週末は各地の山を登っておられるそうだ。

 とても綺麗で上品な方である。まさに”北のサムライ”女バージョン?暫し歓談し、俺はまたハイピッチで下山の途についた。
   途中、俺よりもさらに凄い勢いで下山してくる若者に気づいたので道を譲った。ついでに美しい花を見つけたので画像を撮影した。俺は花については、ほとんど無知なもので名は知らない。ただ、山中で人知れず美しく咲く花って、俺はとても清楚な感じがした。
 登山道の岩の上から大ジャンプして降りると、ガイドつきのオジサンやオバサンの団体とすれ違い、
「すご〜い」
 と拍手される。

 照れ隠しに植物を撮影。しかし、なんという種類なのだろう?また俺には、さっぱりわからん?
 
   もうすぐゴールだ。でも脹脛がかなり痛い。休日出勤が続き、久々の山行だから足腰が弱ってきたのか?

 そんなことを考えていると、紫色の綺麗な花が咲いている。これも高山植物なんだろうけど、筆者にはまたまた種類がわからない。一応、撮影を済ませた。
 霧雨の中、野地温泉駐車場へ到着。登山靴から運動靴へ履き替えていると足の指がつ
ってくるし。

 イテテテ・・・

 この程度の山行で足がつるとは情けない。今回のコースは筆者が描いたネット小説「タンデムシートは指定席」のヒロインがエンディングで縦走したルートだ。

 一流のアルピニストの彼女ですら、野地温泉〜安達太良山頂をピストンするなど考えな
かった過酷な行程である。通常は普通に縦走するべきルートだろう。

 でも敢えて、いつの日か”北のサムライ”が既存の概念を打ち破り、ピストンを成功させるつもりだ。というより、基本的に登山口の駐車場へ車を置いての単独行なので、そうせ
ざるを得ないのだ。

 なんて考えているうちにまたも足がつってきたりする(弱っ)



FIN



2007.7.10UP



記事 北野一機



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