第9話




クッチャロ湖にて



 2011 元旦

 宗谷国道を南下中のバスの中で、ぼくはすっかり爆睡してしまっていた。実は宗谷岬の
売店で北の誉のワンカップを気付けに2つばかり飲んでいるので、もう心地よいことこ
の上なし。←こらっ!
   あの大きなキャンプ場のあるさるふつ公園に入った。ここで、早めの昼食となる。

 ホテルさるふつでのメニューは、ホタテ御膳である。猿払の名物って、ホタテだったんだ。この宗谷国道も幾度となく走り続けたけど今まで知らなかった。
 でも、このホタテの煮漬け?の美味さはなんだろう。味つけというか、タレになにか秘密がありそうだが、それは企業秘密らしい。ご飯を入れてオジヤ風にすると味が沁みてもう絶品であった。

 と、目覚めたばかりで、まだ半分眠っているぼくは黙々と箸を動かしていたのだ。

 仲良くなったオバサンたちとブラジルコーヒーを飲んでいる頃、ようやく頭が冴えてきた。

「キタノさんて、奥さんいるのにお正月にほったらかしで大丈夫なの?」
『今回は、是非行ってこい。北海道に行けないで、ウジウジしているあなたを見ている方がいらつくわといわれました』
「まあ、なんてご理解ある奥様かしら」
 まあ、そんなどうでもよいことを話しているうちにバスは出発した。
   
 クッチャロ湖着。

 ここのキャンプ場も幾度となく利用してきた。夕陽が綺麗な湖である。冬はコハクチョウの飛来地として有名だった・・・

 って、いくらなんでも白鳥が多過ぎだぜよ。

 ヒッチコック!
 
 でもね、この夏に北海道ツーリングが叶ったら、必ずここに還ってくるわ。

 この地は、ぼくの拙いオリジナル小説、マッキーちゃんシリーズの舞台となった場所なので、かなり思い入れがあった。

 またな!

 ここから頓別国道、つまり内陸部に入った。もの凄い降雪量である。廃業したはずのマウントピンネの看板が残っていた。懐かしいし、ライダーメンが食べたいなんて思っているうちに、またも寝てしまった。

 札幌に戻った頃は、もう真っ暗であった。

 ドライバーさんや仲良くなった皆様にお礼を言って、地下鉄で中島公園に向かう。今宵の宿はシティホテルながら天然温泉つきというアートホテルズ札幌である。

 途中、夕食をとろうと重いバックを担ぎながら歩いた。足元が凍っているので、なんども転びそうになった。

 しかし、食堂も居酒屋も全然営業してないじゃないか。中島公園からすすきのへ抜ける、この賑やかなストリートがとても閑散としている。あっ、そうか。今日は元旦なんだ。お店が開いているはずがない。

 諦めて、セイコマでビールや食料を調達し、ホテルに向かう。

 凄いアイスバーンの通りの先に今宵の宿がそびえ立っていた。本当に巨大なシティホテルだった。ちょっと大袈裟かも知れないがリゾートっぽい。

 フロントで受付をした際に荷物を宅配するための箱を購入した。

『あの、レンタルパソコンなど置いてますか』
 一応、聞いてみる。
「ございますよ。1泊千円ほどかかりますが、よろしいですか」
『じゃあ、お借りします』

 ぼくのただでさえ重い荷物へさらにPCやら段ボール箱やらが追加されたので、大変な量になってしまった。

「お手伝いいたしますね」
 にっこりと微笑み、従業員の可愛らしいお姉さんが台車に荷物を積み込んで、17階の客室まで運んでくれた。

 すいませんねえ。惚れてまうがな(嘘)

「温泉は3階にございます。3階まででしたら、浴衣やスリッパでもかまいませんので、ごゆっくりごくつろぎくださいませ」
『はい、荷物ありがとうございました』

 というわけで、さっそく3階の浴場へ向かうと、広々とした温泉施設ではありませんか。体を流し、じっくりとジャグジーの効いた湯に浸かった。

 いやあ、実に心地よかった。つい長湯してしまい、湯あたりしそうになる。

『本年もよろしくお願いします。画像は、今朝6時ごろ、日の出前の宗谷岬からです。寒いし、風が強いし、もう大変!昨夜は、稚内市街のアイスバーンの上で、初めて”人体帆掛け舟”を体験しました。というわけで、先ほど札幌帰還でした。詳しくはいずれ』

 部屋に戻り、ビールを飲みながらPCでネットに入る。そして、ブログに本年初記事をUPした。

 PCを閉じた後は、ベットへ横になりながら小説”警官の血”を夢中で読んだ。なんという奇遇だろう。警官3代のうち、2代目が北大生として昭和40年代のここ札幌に住んでいた。しかし、実は公安の潜入捜査官として学生運動を監視するためであった。やがて、その重圧から心が壊れていく。

 おっと、あんまり書くとネタバレになるか。

 旅ももう終わりだ。明日には苫小牧から太平洋フェリーに乗船予定・・・

 なんて感慨にふけっているうちにぼくの意識は消えていった。

 なんだか、あっという間の日々だった。



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