第4章 羅臼岳登頂成功


 


8月7日(火) 快晴の岩尾別

 6時起床 うわー朝から凄い快晴だあ〜。まさに絶好の登山日より。

 この日岩尾別YHは、宿泊者が多いせいか朝食バイキング。山に入るならガンガン食べとかないといけない。

 食後、登山の準備を入念にする。ペットボトル2本。雨具。長袖シャツ。クマ避け鈴。防寒着。デジカメ。注文して置いた弁当。持参している梅干し等々。あまりパックに詰めすぎると後で辛くなるので、程々にしておかないと。宿のカウンターにある登山者名簿にも記入し、ヘルパーさんに4人ほど(他の2名は自家用車)羅臼岳岩尾別登山口までクルマで送ってもらった。

 本日のメンバーの紹介。リーダー格の東大応援団OBのHN団長。大阪のライダー・イサジ氏。東京の学生風チャリダー・イケダくん。奈良のツジハシさんとアネゴさん。おふたりは女性。キタノを含めて都合6名のパーティ。団長が代表で入山届けを書いて8時に登攀開始。


 11時までには羅臼平に出るぞぉ〜と団長が気炎を挙げている。何か凄そう。最初からいきなり急な登りをハイペースで進む。苦しい〜、出鼻から息があがる。初心者のくせにいきなり羅臼岳登るなんて大それた考えを持った自分がおバカでした。まさに悪戦苦闘。

 そんな中、イケダがずっとヘタな調子で歌っていた。そして涼しい顔して歩いている。こいつ危ないやつ?ようやく団長が休憩をとってくれた。既にTシャツがぐちょぐちょになっている。朝買ったミネラルウォーターの旨いのなんのって・・・。時計を見たらまだ30分しか経ってない。ゾッとした。


 イケダとアネゴはもちろん別行動ながら、GWに2900m級の南アルプスを登ったそうだ。またアネゴはここを踏破すれば日本100名山中86山完了である。奈良のツジハシさんは、利尻富士や羊蹄山など道内の名山を結構登っている。ベテランの団長、さらに初心者と言いながらまさに体力派の団長にぴったり着いて息もあげないイサジ氏。凄い人ばかりで、もうイヤン。

 昨年、礼文にて西海岸8時間コースを歩いたけどその比じゃないぞ。そんな話をしていたら同じ時期にツジハシさんも星観荘に連泊して8時間コースへもチャレンジしていたそうだ。知らなかった、奇遇。団長は先日、桃岩荘で歩いてきたばかりとか。どうりで桃岩で歌われる有名な礼文の「島を愛す」を口ずさんでいた訳だ。

 アッという間に休憩が終わり、出発。アネゴが初心者の僕に何かと気を遣ってくれ「一度汗を流すと楽になるのよ」と実に色っぽく語りかけてくれた。

 ようやく傾斜が緩くなるとイケダが「オホーツク海や知床五湖が見えますよ」と叫んでいる。でも僕は景色を堪能するゆとりなどないのだ。ゼーゼー。
イケダは団長から習った「島を愛す」をインチキな音程で、エンドレスに歌い続けている。そして団長から「その唄禁止。礼文を冒涜している」と怒られていた。
 弥三吉水で休憩。ペットボトルに水を補給。木下弥三吉という人がこの登山口を開いたそうだ。水が旨い。

 頂上を見上げるとあんなとこ登るの?アネゴが「キタノさん、でも登れちゃうのよ」とまたまた励ましてくれた。なんて優しいのだろう。


 イケダは、クマが出るといけないとか言って、ひたすら歌い続けている。確かに途中、登山道にいくつか蟻の巣があり、それを狙ってクマが出るという掲示板があったけど、これだけ人が歩いていれば出るわけないだろう。あっちだって人間と遭いたくないのだから。

 途中、銀冷水という沢があったがここの水は、飲まない方が良いらしい。やがて雪が点在するようになり、沢登りとなった。途中、どっかのオヤジに歌いっぱなしのイケダが「おまえ、うるさい」と怒られていた。かなりへこんだ彼は急に無口になる。

 やがて羅臼平へ。



 11時、羅臼平到着。団長の計画通り3時間ちょうど。ここから頂上アタックだが、ここで暫し休憩。まだあんなにあるのか。登りにくそうな岩肌が望まれる。Tシャツでは肌寒いので長袖を着た。

 イケダが北大院生の女の子に話しかけられた。高校時代の同級生らしい。何とイケダは有名な国立学○大学付属高校出身で京大法学部卒、国の中枢を担うような仕事をしていた。大丈夫か日本の未来は?でも女の子の話だと山岳部のイケダは高校時代から有名人だったらしい。
団長は腹を抱えて豪快に笑っている。そういう団長も東大出。イサジ氏は阪大出身。何だかみんなすげぇなあ。

 もろ私立文系の俺は、疲れ果ててのびていた。


 いよいよ頂上アタック開始だ。丈の低い樹海の中をしばらく登ると岩清水が出ている。ここの湧き水は冷たくて最高級においしい。体力を蓄えて最後の難所、岩登り開始。苦しい。アネゴが「岩登りって楽しいよね」って僕に話しかけてきたが、鬼気迫る形相のキタノは「ぜんぜん楽しくありません、軍曹殿」と言葉を返すのであった。

 足を踏み外したら大変だこりゃ。とにかく後もう一息だ。ファイト〜、一発!



 最後の力を振り絞り、急な岩場を這いつくばるように大きな岩を越えた。やったあ〜頂上だあ。標高1661mの山頂だ。アネゴ、86名山踏破おめでとうございます。皆さん大喜び。素人の僕もやればできるんだなあ(T_T)。「羅臼岳を登らずして知床を語るなかれ」といわれるが、なるほどなあ〜、しばらく感激にひたっていた。

 頂上は、狭い岩の上で風が強くかなり寒かった。でも絶景!知床連山、国後島、何でも見える。防寒着を出して画像を撮りまくった。

 この感動を胸に羅臼平に昼食をとりに頂上から一歩一歩降りて行った。


 降りは皆さん早い早い。慌てて着いていくが、途中で何か変だぞ。膝が痛い。ここは空手の修行時代、試合相手にローキックをくらい病院送りにしていただきやがった所だ。2回も。痛みをこらえるため動きが鈍くなり特に終盤皆さんから遅れがちになる。

 置いてきぼりになってしまうと思っていたら後ろから「大丈夫ですか、ゆっくりでいいんですよ」と声がする。イケダあ〜、お前かなりいいやつなんだなあ。イケダの励ましで遅ればせながら16時過ぎ無事下山。8時間かかった。ここで今日は「ホテル地の崖」に宿泊するアネゴとはお別れ。たいへんお世話になりました。
 


 その後、露天風呂にドボーン。イケダはタオルなしで入っていました。やっぱツワモノだ。

 帰りは、団長のクルマに乗せてもらいYH到着。もちろん夕食後は、談話室で反省会。連絡先交換などして楽しく過ごした。

 さすがにその夜は、爆睡・・・・   


8月8日(水) 晴れ後雨

 朝食後、出発の準備にかかる。既にイケダやイサジ氏は、礼文の桃岩荘目指して旅立つ。僕も連泊する団長やツジハシさんに見送られ出発する。おふたりに「気をつけて」と言われた瞬間、急に目頭が熱くなり慌ててヘルメットをかぶりアクセルをあげた。どうも歳をとると涙腺がゆるくなるもので・・・

 岩尾別で知り合った皆さんと共に羅臼岳を登った想い出は生涯忘れることはありません。苦しかったけど最高に楽しかった。

 後で団長からもらった名刺の裏側を見ると「キタノさん、長いつき合いになりそうですね」というメッセージが添えられていた。



羅臼岳の高山植物

*花の名を団長から教えてもらったけど結構忘れてしまった。


PS.旅行中、既にツジハシさんより知床から一通の絵はがきが届いていた。ご丁寧にありがとうございます。

 妻が文面の
「キタノさん、楽しい1日をありがとう。忘れられないいい思い出になりました」
 という部分を読んで
「楽しい1日って何?忘れらない思い出って?この女の人と何かあったの?」
 としつこく聞いてきました。僕が、
「羅臼岳登山って書いてあるじゃないか」
 とりあえず応えると安心したようでした(笑)

 
羅臼岳よ、ありがとう。